その年の夏、都会の喧騒と照り続ける太陽から逃げるように、私たちは妙高高原のロッジで一週間を過ごすことになった。もう50年も前のことだが、古文書学の単位を修得するために、男女数十人が早朝から就寝時間直前まで「古文書解読」だけに時間を費やした日の事を思い起こした。
大学2年生の年だった。何の準備もせず、ただ『近世古文書解読字典』一冊だけを手がかりに、地元の寺に収蔵されていたイバリくさい古文書を解読する作業にひたすら没頭した。容易い授業ではなかった。
今では、様々な古文書字典や入門書があって、独学でも「古文書解読」を学べるが、その頃はその手の書籍は数少なく、教師から学生へ、先輩から後輩へ、口頭で受け継がれるという学問だった。
私は林英夫教授の編まれた『近世古文書解読辞典』を凌駕する書籍を編集・出版するという夢をもって、より多くの人に受け入れられる古文書入門書やくずし字典・用語辞典をこれからも編集していきたい。
2,400円+税
一点の古文書をもとに村や町、地域の歴史を描き出す。村方文書をはじめ、武将の書状、日記や棟札など多様な古文書や史料を新たな視点で読み直す。